2022年4月
委員長 国立大学法人大阪大学 池松 靖人
副委員長 武田薬品工業株式会社 杉本 聡
副委員長 協和キリン株式会社 森 充生
当委員会は、最大の参加人数を有しており2004年から活動している。現在、6つの研究グループと1つの分科会(内3つの研究グループ)で隔月または臨時委員会として活発に研究を行っている。
- 1 Group:容器完全性試験研究
無菌医薬品では、微生物を主な対象としたバリア機能の適格性をそのライフサイクルに亘って証明する必要があり、容器完全性の管理は極めて重要な管理要素の一つである。近年、USPでは無菌製剤の容器完全性の考え方および管理手法を記載したUSP<1207>が改定され、日本薬局方第17改正においては、「製剤包装通則」に包装のバリア機能に関する要件が明記されるなど、注射剤の容器完全性の管理に関する社会的要件はますます高まりを見せている。ただしこのバリア性保証のための試験は全ての品目で同一の試験が適用できるわけでなく、数多くの試験法の中から、実行性、信頼性それぞれの観点から製剤特性に合わせた適切な試験法を選択することになる。本グループでは、容器完全性を損なう要因とその汚染リスクへの影響を整理し、そのリスク評価法としての容器完全性試験のあり方について検討を行っている。 - 2 Group :注射剤異物目視試験研究
本グループは、注射剤の不溶性異物について、日本市場における要求品質を満たすための保証方法を標準化し、ゆくゆくは国際的にも普及させることを目的として研究活動を行っている。その背景として、三局において異物の検査方法はハーモナイズしたものの、取り除かれるべき異物の基準が“たやすく検出される不溶性異物を認めてはならない”というあいまいな状況が存在する。また、日本では、注射剤の異物に要求される品質が諸外国と比べて高い傾向があることから、海外製造所で製造した製品について国内で追加の目視検査を実施しなければならない実状もある。現在、目視検査員の検出力を数値化し、その評価方法を標準化することを検討している。統一されたレベルの検査員による、標準的な品質保証手順を構築できれば、日本薬局方が求める“たやすく検出される不溶性異物”というあいまいな判定基準に対して目視検出力の客観的な適格性を説明することができ、国際的にも日本市場が要求する品質を実現しやすくなると考えている。 - 3 Group:微生物迅速試験法研究
医薬品及び再生医療等製品の製造施設には、製造工程における微生物学的な品質管理や環境モニタリングなどは重要であり、製品への微生物学的汚染のリスクを最小限にし、その環境と品質をモニタリングする必要がある。近年、微生物迅速試験法の価値が急速に認知され、第17改正日本薬局方参考情報やPIC/S(EU)GMP Annex1などガイドライン上での記載頻度も高まっており、微生物迅速試験法を活用した最適で有効な新しい微生物管理の実現が求められている。そこで本グループでは、微生物迅速試験法の考え方と活用方法などを研究し、その成果を継続的に発表することで、規制当局と製薬企業及びサプライヤーへの微生物管理における新価値創造へと寄与することを目的とする。また本グループはユーザー(製薬企業)とサプライヤー(機器供給企業)でメンバー構成されており、両側面からのアプローチによる製造現場等での実践導入と適格性を重視し、応変で応用可能な研究も行っている。 - 5 Group : 新しい無菌保証・汚染管理戦略の研究
近年無菌医薬品の製造現場は、アイソレーターやRABSなどに代表されるような高度な無菌環境制御が可能な最先端の技術が導入されてきており、いよいよ人を介在させない完全自動化された無菌グローブレスアイソレーターの実用化も目前にせまっている。無菌操作法による医薬品製造技術の進展がみられる一方で、それに関わる法規制やガイダンス等は、その管理方法が従来のコンベンショナルクリーンルームを用いた製造方法に基づくままであると推察され、GAPが生じてきている。本グループでは、高度な無菌環境制御技術の発達に対して、医薬品製造に対する無菌性保証の在り方・汚染管理戦略の見直しと最適化について、サイエンスベース、リスクアセスメントの手法をもとに研究を行っている。あわせて汚染管理戦略を議論するにあたり、無菌性保証に関わる各技術・試験方法に関する歴史的経緯やその意義を調査し整理することで、理解を深めている。ファーマテックジャパンにも数多く投稿し、意見発表の機会も多い。 - 6 Group : 封じ込め技術研究 メンバー募集中
医薬品製造では、抗がん剤などの高い薬理活性もつ製品(高薬理活性医薬品)を製造する機会が増加している。また、近年注目を浴びるワクチン類の製造に加え、再生医療等製品においても、ウイルスベクターなどの遺伝子治療用製品の製造や、遺伝子を導入する細胞加工製品の製造など、ケミカルハザードあるいはバイオハザードに対応した封じ込め技術の要求が高まっている。封じ込め対応は、対象のハザードとリスクの分類より、同一施設内で取り扱う製品あるいは作業者にどのような影響が生じるかを評価し、リーズナブルな対応手順を適切に実行できることが望ましい。本グループでは、封じ込めを要する対象が他製品あるいは作業者に与える影響を整理し、そのハザードとリスクに応じた、適切な構造設備設計およびその運用のあり方について検討を行っている。また、ハザード対策と無菌製造を両立することの技術的な課題についても検討する。 - 7 Group : PIC/S GMP Annex1研究
現代の無菌医薬品製造には、患者帰結の品質保証、最新技術の積極的活用、QRMを駆使した工程理解と合理的根拠の整備、設計思想と得られたデータに基づく管理戦略の正当性など、多岐にわたる企業実践への期待と要求がある。それらを構築、あるいは継続的に改善するにあたり、ひとつのデファクトスタンダードとして、EU-GMP_Annex1への関心は年々高まっている。本グループでは、現行Annex1から現在まで公開された改訂DRAFT(2017,2020版)への変化と変わらぬ思想に着目し、代表的かつ議論の絶えない注目トピックスを題材に、本質理解に基づく企業実践および業界への提起、啓蒙を目的に活動している。
再生医療等製品GCTP研究分科会(分科会リーダー 協和キリン株式会社 森 充生)
再生医療等製品は無菌医薬品と同様に無菌製品であり、その製造と品質管理においての要件はGMPを基準としたGCTPで運用される。再生医療等製品は医薬品製造に比べて、ロットが小規模でヒトの介在操作や自動化・機械化への技術的課題が多く、作業者の手技に頼る現状が存在する。また再生医療等製品は多種多様で原料(ヒト細胞)や最終製品でのバラつきがあり、ケースバイケースでの運用が求められる場合が多い。このような現状から再生医療等製品の産業化は未だ発展途上的であり、特に製品の製造・品質管理において無菌医薬品とは異なる課題が多く存在する。これらの課題等を議論し世界標準へと導くための技術的ノウハウの開発やレギュラトリーサイエンスが急務だと考える。本分科会では、「無菌」をキーワードに再生医療等製品における特有の課題について取組み、3つの研究グループを設置(8 Group:無菌操作研究、9 Group:プロセス研究、10 Group:レギュレーション研究)し、再生医療等製品の製造・品質管理に直面する課題や問題解決など研究し、その成果を国内外へ発表することで業界の活性化と産業化を促進させることを目的とする。
- 8Group : 再生医療/無菌操作研究
再生医療等製品の製造において無菌操作は品質を担保するために不可欠な要素である。特に開放系の製造設備を有する施設においては人の介在等による汚染リスクが潜在しており、無菌操作そのものが製品品質といっても過言ではない。無菌操作とは作業者の手技に限定されるものでは無く、設備や環境といった製造に関わる全てにおいて確立されるものであることから、無菌操作の在り方を十分に協議していくことが必要である。しかし、無菌医薬品製造とは異なり歴史が浅い分野であるが故、知見、経験が少なく、無菌操作についてのレギュレーション自体も不完全な状態である。本グループでは無菌操作を確立するために必要なリスクの洗い出し、またそれらのリスク評価・検証、グローバル的な視点を交えての統一化といった柱を立てて再生医療等製品の製造における無菌操作の在り方を考えていく。 - 9Group : 再生医療/プロセス研究
本グループでは2つの取り組みを行っており、1つ目は、申請において先端医療製品(ATMP)あるいは再生医療製品等といわれるカテゴリーの製品に対して、製造を取り巻く技術と規制の全体像を理解し、課題を見つけて興味あるテーマを掘りさげる活動を行っている。全体像の理解には、入手可能なグローバルに公開されている文献を手分けして調査し、申請に必要な知識の整理を行い、業界が既に経験し議論している内容を分析し、製品タイプごとの技術のフローと課題の図式化などを行いたいと考えている。2つ目の取り組みは、参加者の解決したいテーマを一般化、モデル化した図式で各自説明し、グルプメンバー共同で解決方法を考える具体的な取り組みを行っている。本グループでは製造販売申請時に必要な知識整理とプロセス開発の事例研究により、製造プロセス全体を俯瞰し、具体的な問題解決を目指す。 - 10Group : 再生医療/レギュレーション研究
再生医療等製品、その中でも特に、細胞加工製品は、生きた細胞が最終製品の品質に組み込まれるため、その製品・品質設計が煩雑である。製造・品質管理の規制対応では、製品の適用疾患・投与方法に応じた、製品形態あるいは原料細胞などで生じる多様な選択性により、工程設計や運用設計、保管・輸送の設計などで、ケースバイケースでの考え方が要求される。本グループでは、再生医療等製品製造に係る法令あるいは指針等の文章を読み解くことで、ケースバイケースの対応を考慮した、規制対応を支援するガイダンス等の提案を目的とする。また、無菌操作設計、プロセス設計、封じ込め設計などの他グループと協力し、規制対応の考え方を共有することで、設計の妥当性評価方法・手順を構築する一助となることを目指す。